こんにちは、エンジニアのオオバです。

森美術館で開催中の 「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」 という展示に行ってきました。あまり普段から現代アートを見に美術館へ足を運ぶことはないのですが、

このようなキーワードが並ぶと、日常的にゲーム開発をしている身としてはどうしても興味が湧いてきます。

2025年の2月から開催していて行こう行こうと思っていたところに森美術館の方からX経由でお声がけをいただき、少人数のツアーに参加させていただいたという感じです。

オオバは日常的にゲームエンジンのUnityを使ってゲーム開発の仕事をしています。普通に仕事をしている

そこで本記事では森美術館で開催中の「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」に興味はあるけどまだ足を運んでいないという方に向けてレビューしていきます。

行くかどうかを迷っている方の参考になれば嬉しいです。

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結論「行ってよかった」

最初に結論をお伝えすると、オオバ個人としては参加して良かったです。理由は大きく3つ。

マシン・ラブに参加して良かった3つの理由

①ゲームエンジンやAIについての別の視点に気づけたこと

②ゲーム制作のアイデアをもらえたこと

③普段使っている技術が、人間や社会への問いを含んでいると気づけたこと

普段ゲームエンジン(オオバの場合はUnity)やゲーム、生成AIをどんな気持ちで使ってますか?

オオバの場合は仕事柄ゲームエンジンやゲームは日常の一部として使用しています。ところが生成AIは過度期であるため、すごい技術だなぁって思いながら使っていました。

しかし、それらは過去を振り返ると表面的な理解に過ぎなかったと感じています。

今回の展示を通して、これらのテクノロジーが現代アートというフィルターを通すことで、 より深く多角的な視点から捉え直すきっかけ を与えてくれたのです。

①ゲームエンジンやAIについての別の視点に気づけたこと

普段、オオバはゲームエンジンは 「ゲームを作るためのツール」 AIは 「効率化や新しい表現を生み出すための手段」 として捉えていました。

しかし「マシン・ラブ」展では、これらのテクノロジーがアーティストの表現の根幹となり 社会や人間の存在そのものを問いかけるための強力なメディアとなり得る ことを目の当たりにしました。

「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」に行ってきました_1

例えば、佐藤瞭太郎さんの「ダミーライフ」シリーズでは、ゲームエンジンを用いて現実と仮想のアイデンティティや存在の意味を問いかけています。ネット上のスナップショットから人物をアセットに置き換えて制作した作品です。

デジタルアセットが減らない特性(複製できる特性)から「資産となる」「作品を超えた俳優となる」という見方も可能です。

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例えば上の写真の左のアセットはUnityエンジニアにとっては見慣れたロボットですよね。

「あのロボットは普段こういう人たちと生活してるんだぁ」

という人気俳優のオフショットのような感覚を持ってしまいました。

普段からオオバはUnityアセットストアで何気なく素材を購入しています。今後アセットをダウンロードするときにはこの作品を思い出し 今までとは違う視点でアセットを使うことになる でしょう。

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ところでゲーム開発では、オブジェクトの複製やRigidbody、Colliderを用いた物理演算を当たり前のように使っていますが、そこに潜む 「暴力性」 という視点にも「ハッ」とさせられました。

普段何気なくUnity上でアバターを振り回していても、もしそれが『トイ・ストーリー』のように心を持ち、自分の意思で生きている存在だったとしたらどうでしょうか。複製や衝突、吹き飛ばしといった行為は、彼らにとって 非常に暴力的な出来事 として感じられるはずです。

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そんな視点があったかという発見が新鮮でした。実際の映像は現場で見てもらえればと思います。※かなり見応えがありますよ。

②ゲーム制作のアイデアをもらえたこと

行ってよかった2つ目の理由は 「ゲーム制作のアイデアをもらえたこと」 です。

現代アートの作家たちはゲームエンジンやAIを既存のゲームの枠組みにとらわれずに 自由な発想で活用 しています。このような作品のインプットが ゲーム制作における表現の可能性はもっと広げられる のではないかと感じました。

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特に印象的だったのはインディーゲームのコーナーです。タッチ操作やコントローラーのボタンなど手段の少ないインプットから

などがテーマとなっており、さまざまなインディーゲーム作品が展示されています。また実際にプレイも可能です。

これらの作品は 既存のゲームのジャンルに当てはまらない 新しいインタラクションや感情体験を提供しており、ゲームデザインの固定観念を揺さぶられました。

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例えば新型コロナが流行した時期に登場した「ハグゲーム」。オンラインで他者とハグするというシンプルな行為を通じて、接触の減少した現代における繋がりやコミュニケーションのあり方を問いかけており、ゲームが単なる娯楽ではなく、人間関係や社会性を考えるためのメディアになり得る可能性を感じました。

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またルー・ヤンさんの「DOKU」はAIやゲームエンジンを活用して作家自身をモデルにしたデジタルアバターが仏教世界を旅する映像作品です。

ゲームのキャラクター表現や物語の語り方に新たな視点を与えてくれました。

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ポップで奇抜なビジュアルでありながら、アイデンティティや死生観といった重めのテーマを扱っています。

ゲームにおいてもエンターテイメント性だけでなく より深いメッセージや問いかけを込めることができる のではないかと感じました。

③普段使っている技術が人間や社会への問いを含んでいると気づけたこと

マシン・ラブ展に行ってよかった3つ目の理由は 「普段使っている技術が人間や社会への問いを含んでいると気づけたこと」 です。

展示全体を通して感じたのはAIやゲームエンジンといったテクノロジーは 単なる便利なツールではなく私たちの社会や人間存在そのものに深く関わっている ということ。

2022年11月にChatGPTが登場して約2年半が経ち、AIを使う日常が普通になりつつあります。この日常的に使用している技術に新しい視点を与えてくれました。

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それがディムートさんによるAIキャラクターとの対話作品です。AIとの対話を通じて 「人間とマシンの新しい関係性や共感の可能性」 を探っています。

AI同士の討論や、AIと観客の討論などを通じて

といった根源的な問いを突きつけられました。

AI同士の議論が非常に正確であるにもかかわらず、時に人間らしさが不気味さ(不気味の谷)を感じさせるという現象は人間と機械の境界線について深く考えさせられた作品です。

結局ゲーム開発者は参加する価値はあるか?

答えは「YES」。

なぜならこの展示は 新しいゲーム開発のアイデアのきっかけや、作品に深みを加える視点を与えてくれる貴重な体験 だからです。

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ゲームエンジンやAIといった技術が、アートとしてどう使われているかを目の当たりにすることで

と自分の中の発想の引き出しが増えていきます。

実際、展示を見ている最中から 「この表現、自分のゲームにも取り入れられそう」 と感じる瞬間が何度もありました。

開発の現場にいると つい効率や機能性に意識が偏りがち ですが「人間とは何か」「社会とは何か」といった本質的な問いを技術でどう表現するか、という視点は これからのゲームづくりに良い影響を与えてくれる と感じています。

まとめ

今回の展示「マシン・ラブ」は、AIやゲームエンジンといった私たちが日常的に触れている技術が単なるツールや表現手段ではなく 「人間とは何か」「社会とはどうあるべきか」 といった本質的な問いを内包していることに気づかせてくれる貴重な体験でした。

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特に印象的だったのは言葉ではなく 「体験」 を通してこれらの問いに向き合えるような構成になっていた点です。

展示をただ鑑賞するのではなく、テクノロジーと人間の関係性に没入しながら、自分自身の価値観や感覚を揺さぶられるような感覚がありました。

「AIは人の心にどこまで触れられるのか?」 というテーマは、一見抽象的で難解にも思えますが、本展ではそれをアートとインタラクティブ、メディアの力で理解しやすい形で提示していたのが良かったです。

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ゲーム開発者、AIに関心がある方、あるいは現代アートにちょっとでも興味がある方なら 何かしらの「気づき」を持ち帰れる展示 です。

本記事で紹介した作品はほんの一握り。 12人の作家がそれぞれ違う視点 の作品を展示しているので、自分に合った、または好きな作品が出会えると思います。

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※ちなみにオオバが一番好きな作品は「ヒューマン・ワン」

技術を使ってものづくりをする人ほど、こうした展示から得られる視点は大きいはずです。まだ足を運んでいない方にはぜひ体験してみることをおすすめします。

展示情報

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